【救急】事案 典型的脳卒中症状の原因は?

今回はこのような特異事例を紹介したいと思います。実際の経験やシンポジウムでの発表を元に作成しています。

 

00月00日 18:00 救急出動

指令内容:85歳 男性 椅子に座ろうとした際に、後方へ転倒。首を打撲。

共同住宅1階居室にて座位の傷病病者に接触。初期評価の結果、呼吸循環異常なし。若干の冷汗あり。事故概要は指令内容通り。頭部や全身に外傷なし。

接触時所見

・頭痛なし

・瞳孔異常なし

・左口角下垂あり

・流涎あり

・構音障害

・左上下肢麻痺

・意識消失あり

バイタル

意識:Ⅱー10(GCS:3-4-6)

呼吸:20

心拍:41

血圧:192/58

SpO₂:99%(RA)

体温:36.4

瞳孔:2mm(+)/2mm(+)

心電図:

f:id:j-paramedic:20220115051919p:plain

 

既往歴

高血圧・心不全

 

これらの観察所見から典型的な脳卒中が疑われるとだろう。片麻痺や運動障害による呂律不良や流涎が見られ、心拍数と血圧高値からクッシング兆候と判断し、一層脳卒中として現場診断できるかもしれない。しかし、それでは特異事案として紹介できないのでどこかに違和感を持っていただきたい。

違和感の正体にお気づき頂けただろうか、、、、、

 

 

 

 

 

 

その正体は心電図だ。

Ⅲ度(完全)房室ブロックである。

 

f:id:j-paramedic:20220115053357p:plain

赤色で示したP波は、QRS波と連動することなくバラバラで電気信号を示している。

今回の事案では、実際に脳卒中は発生しておらず、Ⅲ度(完全)房室ブロックが原因で脳血流量が著しく低下し、虚血が原因で典型的な脳卒中症状が現れたようだ。

現場で明らかな脳卒中症状がある傷病者から心電図を読み解き、活動方針を変更していくのは難しいと思う。(個人の見解だが、一応脳外科も循環器も両方診れる病院に搬送したいと考えてしまう。)しかし、典型的な脳卒中症状を来す症例として房室ブロックが原因になっていることがあると、頭の片隅にあるだけでも現場活動でミスを犯さないことにつながるだろうと考えている。

 

皆様にとって救急活動の参考になれば嬉しいです。

【救急】化学損傷

第29回全国救急隊員シンポジウムの発表によると、化学損傷の傷病者に対して、早期搬送が必ずしも良いとは限らない。

 

強酸性や強アルカリ性の薬品などにより化学損傷をきたしてしまった場合には、早期搬送するよりも現場で30分以上大量の流水で洗い流した後に、搬送するのが良い。理由としては、負傷部位に化学物質が留まることで皮膚への侵食が進行していくからだ。搬送に移行してしてしまうと、何も処置ができないので皮膚への侵食が進行してしまう。搬送しながら洗い続けることができれば、それが最適解になるかもしれないが、救急車内に30分間化学物質を洗い流せるほどの生理食塩水や水を積んでいないので現実的ではないと思う。

 

各地域によって事情があると思うので、一概には言えない。しかし、収容依頼の電話の際に”現場にて30分ほど流水で流してから搬送に移行したい考えているのですがどうですか?”など提案するのが良いと思う。

【救急】保温

第29回救急隊員シンポジウム:保温効果について

某消防本部が保温効果の検証を行った。

 

検証実験内容

①毛布だけの場合

②アルミックスシートだけの場合

③毛布とアルミックスシート両方の場合

 

結果

③毛布とアルミックスシート両方を使用した場合が一番保温効果が高かった。

特に、患者を毛布で包み、その上からアルミックスシートで包む方法が良い。②のアルミックスシートだけでは、患者とアルミックスシートの間に空間ができてしまい、密着度が小さい。その結果、冷たい風が入ってきたり、暖かい空気が出て行ったりする。その空気の出入りを防ぐために③のような両方で保温する。

この方法は、出生後の新生児や浴室での急病などでも幅広く使えるため、今後個人装備としてポケットに忍ばせておくのも良いかもしれない。

f:id:j-paramedic:20211212173107p:plain

よくどっちがどっちかを忘れてしまうので、、、

・覚え方は、傷病者を金色で豪華にしてあげると暖かそう。

 

【救急】第29回救急シンポジウム

情報収集に時間がかかってしまい、更新するのが遅くなってしまいました。

申し訳ございません、、、

今回から第29回救急隊員シンポジウム(大阪・栄市開催)の発表の中で明日からで現場で使えそうな知識を情報共有したいシリーズを始めたいと思います。このブログさえ読んでおけば、第29回救急隊員シンポジウムで発表されていた、現場で活動の役に立つ情報がお手軽に収集できます。

今後は、第28回救急隊員シンポジウム(仙台市開催)や第30回救急隊員シンポジウム(群馬開催)などを取り上げていきたいと思います。

何か質問等があれば、ぜひ連絡をいただければと思います。

どうぞよろしくお願いします。

【救急】大動脈解離

概要

 第29回救急隊員シンポジウムでの発表によると、ある地域での”急性大動脈解離”と最終診断が出た症例(CPAを除く)に対して、救急隊がアンダートリアージをしてしまった件数は、全体の33%に及ぶ。その原因を追求すべく、アンダートリアージをしてしまった事案での観察所見と対応した救急隊の所感をまとめた。その結果、アンダートリアージされた急性大動脈解離では、”症状の軽快”が多くの患者で見られたことが明らかになった。

 大動脈解離は、さまざまな所見が見られる。また、急性心筋梗塞と全く同じ所見であるにも関わらず大動脈解離であることもある。患者を見た時に重症感があれば、迷わず三次救命センターを搬送先に指定するだろうが、ここで取り上げた”症状の軽快”という所見も大動脈解離に見られる所見として、頭に入れておくことが良いと思う。(例えば、意識消失があって今は特に主訴はない。さっきまでは胸痛と背部痛があったが今は改善している、一時的に右下肢が蒼白状態になったが短時間で軽快したなど。)

 

血圧の左右差を観察する方法(おおよそ20mmHgほどの差があれば左右差である)

1、患者の両方の橈骨動脈を同時に触れる。(なかなか分かりづらい)

2、自動血圧計、もしくは手動血圧計で測定し比較する。(数値で比較できるため有効であるが、状況によっては時間がかかることもある)

3、サチュレーションモニターを使って左右差を比較する。(⇦素早く簡易的!)

 

結論

傷病者接触直後は、サチュレーションモニターを使用し、迅速かつ簡易的に左右差があるかどうかを観察し、その後血圧計を用いて左右差を観察する方法が良いと思う。

 

f:id:j-paramedic:20211125212800p:plain

f:id:j-paramedic:20211125212835p:plain

血管内の中膜が剥がれることで、血管が解離する。
解離した場所と程度によって来す症状が異なる。

f:id:j-paramedic:20211125213002p:plain

A型とB型の違い

スタンフォードA型でもB型でも多様な所見を呈する。

・多様な症状が見られる大動脈解離では、疑うことから始まるので、疑うための情報や初見はたくさん持っておく。

【救急】新生児・小児対応

体温管理

・新生児の保温は、いかに体温の喪失が防ぐかが極めて重要である。新生児の体温36.5℃であれば、1℃下がるごとに死亡するリスクが28%上昇する。

体温の喪失経路は、伝導、対流、蒸散、輻射である。

伝導:背中から体温が逃げていく。

対流:風に当たることで体温が低下する。屋外であれば風向き、自宅であれば扇風機やクーラーの風向きに注意する。

蒸散:水分が蒸発するときに周りの熱を奪うことで、体温が低下する。1枚目のタオルでしっかり拭いた後に、2枚目のタオルとアルミックスシートを使って、しっかりと保温する。

輻射:頭からも熱が逃げていくので、頭も保温。某消防では、救急車のお産セットの中に新生児用の帽子と手袋を入れている。

 

 

 

呼吸管理

・出生直後、手足の先だけの末梢性チアノーゼを認めることはよくあるため、処置の適応にはならない。しかし、口唇部や口腔粘膜、体幹部のチアノーゼは中枢性チアノーゼであるため、介入(人工呼吸等)が必要である。

 

・高濃度酸素投与と、低酸素状態の両方を避ける。

 

・酸素投与する時に、酸素マスクのゴムで被れる可能性があるのでフリーフローが推奨されている。

 

・一次性無呼吸と二次性無呼吸があり、出生直後に呼吸をしているが、その後呼吸が止まってしまうことを一次無呼吸という。その後も不安定に呼吸が止まることがある。

 

・出生直後の人工呼吸は、換気圧を40cmH₂0程度の高さを保つ。肺胞の中に溜まっている羊水を発散させるイメージ。

アンビュー社の新生児用BVMであれば、青いキャップを外して換気することで換気圧が40cmH₂O以上にならないように作られている。

レールダル社の新生児用BVMもそのまま使うことで。40cmH₂O以上にならないように作られている。

f:id:j-paramedic:20211124203246p:plain

黄色:レールダル  青色:アンビュー

 

f:id:j-paramedic:20211124203403p:plain

蓋が閉まっている状態

f:id:j-paramedic:20211124203517p:plain

蓋が開いている状態(使用時)

f:id:j-paramedic:20211124203613p:plain

蓋がないため、そのまま使用可能。
40cmH₂O以上の圧力がかかると自然に圧力が抜ける。

循環

・出生後は、生理的肺高血圧状態になっていることがあるため、右手の動脈血酸素飽和度が90%を超えるのに10分前後かかることもある。(NCPRのフローチャートを見ると、パルスオキシメーターの装着をそれまで重要視していない。一番最初に大切なのは、心拍数が100回以上あるかと、自発呼吸があるかどうか。特に信頼できるのは、心拍数の評価)

 

・臍帯を介した血液は、臍帯結紮を行わなくとも2〜5分後には自然に途絶する。

 

・必要であれば、胸郭包み込み圧迫法を第一選択する。背中からも押すことで2本指圧迫法よりも心拍出量が多い。

 

・出生後に除細動器が必要になることはない。出生直後に除細動が有効であるというエビデンスもないし、ショック適応波形であることもほとんどない。

 

その他

・筋緊張は、WM型で確認する。上肢が肘を曲げてWの形。下肢は膝を曲げてMの形。この形でなければ筋緊張の低下。

【読書】なぜ読解力が必要なのか 池上彰

 学校であっても職場であっても、生活する上でも、読むという力は常に必要とされる。例えば、学校であれば国語に限らず、数学の問題と解くのにも問題を読む力が必要である。そして、それはどの教科にも同じく言える。職場では、決められているマニュアルや規則、規定を読むことが必要であるし、生活する上では、保険や取扱説明書を読む時に必要とされる。社会で生きていく上で、どんな状況でも読む力は必要である。その読む力を鍛えることで、読む力がそのものも本質を見抜く力になる。その力を読解力と言い、その力を改めて感じ直し、鍛える方法をこの本によって考えることができた。

 

 この本は5つの章に分かれていて、それぞれ

1、読解力を伸ばすと生き方が変わる

2、情緒と論理のふたつを使いこなす

3、読解力にとって一番必要なもの

4、読解力はいつでもどこでも伸ばせる

5、楽しく読解力を上げるにはやっぱり読書

読解力の定義、種類、活用方法、トレーニング方法、結論の順で書かれている。

 

読解力とは、読む力を使って、物事の本質を見抜くことである。その読解力はこの社会で生きている以上、どんな環境でも必要である。必要なだけではなく、読解力を伸ばすことが物事の本質を見抜くことになり、より良く生きる力につながる。例えば、コロナウイルスが36度で死滅するというニュースを見たとしよう。読解力がない人、つまり知識だけがある人は、この話を聞くとああ良かった。安心だという感情を持つだろう。しかし、読解力がある人で教養のある人は、36度はそもそも人間の体温であるからして、そんなことはあり得ない、フェイクニュースだと考える。極端な例になってしまったが、ただ知識として持つかそのニュースの本質を汲み取りニュースを判断するのは、その人の読解力にかかっている。

読解力には2つのパターンがある。小説やフィクション小説などを読むのに利用する情緒的読解力と知識本などを読むのに利用する論理的読解力である。この力は両方を伸ばしていくのが良いだろう。論理的に考え行動するのが最も効率が良く、最善の生き方にも思えるが、人間は時として理論的な行動を取れないものである。人間に感情があると同様に、社会自体にも人間と同じような感情に似た性質を持つ。一人一人の考えが交錯するこの社会では、両方の力が必要となる。

読解力を使って本質が見えるようになることで、自分の答えを自分の考えに従って出すことができるようになる。学校の国語の授業を思い出してほしい。作者の考えを答えよという問題が多く出てきたことであろう。それは作者の考えを正しく読むという能力として確かに大切だが、社会でよく使う能力としては作者の考えを感じ、さらに自分はどう考え、どう行動するかが大切になっていく。先の話にあった通り、知識人から教養のある人になっていくことで情報過多の時代を惑わされることなく、生きていくことができる。

読解力を伸ばすには、書く力を伸ばすのも良い。書くためには話の展開の順番を考え、抽象的表現から具体的な例を用いて、言葉に起こすことが必要になる。意外と書く側になると、言葉に詰まり、言いたい表現や言い回しがうまく出てこないものだ。何度も言うがそれは書き始めなければ、自分にどのくらいの力があるかわからない。

以上を踏まえた上で、もう一度本を手に取り、読む力から読解力に変わるのを感じてほしい。簡単な本ももちろん読んでいいし、時には小難しい、何度も読まなければ分からない本も読んで、自分の読解力をあげていこう。テストや試験に捉われることなく、教科書を読み、歴史を読む。本を楽しめるのは大人の特権であるのだから。